登録施設・団体数 86 (2024年11月現在)
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ジオパークに指定されている地形が魅力のひとつでもある島根町

松江市内から車を走らせること15分。山をひとつ越えると、視界の先には鮮やかな青色の海が広がります。松江市島根町は、島根半島の中央東よりに位置し日本海に面した海の町。古くから漁業が盛んで、新鮮な魚介類が水揚げされています。また、自然の歴史や背景をそのまま残した地形や地質により国立公園に指定され、ジオパークにも登録されている島根半島。今もなお豊かな海と山に囲まれ、ダイナミックな自然を肌で感じることができる場所です。

憧れだった
ダイビングは
一瞬で
人生を変えた。

「こんな海、他の場所ではなかなかないですよ」と語るのは森廣一作(もりひろかずなり)さん。キラキラと輝く海のすぐ近くで、ダイビングショップ・カフェ・ゲストハウスを経営しています。
森廣さんはこの海に魅せられ、2018年に移住してきました。生まれも育ちも広島の森廣さん。子どもの頃から家族で浜田市の海に行き、海水浴やキャンプをするのが毎年恒例だったそう。その影響か、海や海の中の生き物が大好きだったといいます。そんな森廣さんがダイビングに出会ったのは30歳の時。当時働いていた半導体の工場の同僚と一緒に、高知県の海で初めてダイビングを経験しました。「ずっとやってみたいと思っていたんですけど、実際に潜ってみたら“これを仕事にしたい!”ってすぐに思ったんです」と、一瞬で虜になったのだとか。その後は広島のダイビングショップに通い、ライセンスを取得。初めて潜った日から1年も経たない異例の速さで、インストラクターになりました。

沖縄の海にも
負けないくらい美しい。
島根町の海との出会い。

本業の傍ら、休日はインストラクターとしてお客さんと一緒に海に潜る森廣さん。きれいな海を探して全国を回るうち、海水浴やキャンプで訪れていた島根町の海の美しさに惹かれ、ここで潜ってみたいという気持ちが大きくなります。検索すると、島根町に休業中のダイビングショップがあるのがわかり、ある時そのお店の近くまで行ってみることに。たまたま通りがかった地元の漁師の人に声を掛けられた森廣さん。事情を話すと「この店のオーナーを知っていて、何度も船を出したことがある。一度潜ってみたらいいよ」との答えが。その後連絡を取り合い、海に潜ってみると、想像通りの素晴らしさを確信します。「他の海とはまったく違う。沖縄に負けないくらいの美しさがある」と、すっかりこの海に惚れ込み、その後も広島からお客さんを連れ何度も通っていました。
しかし、その後問題が発生。実は地元の人との認識のずれがあり、地元では森廣さんが無許可で海に潜っているという話が広まっていました。その時、地域の方から詳しい話を聞き、森廣さんはやっと現状を把握します。「地域の漁師さんをはじめ、ここに住んでいる他の人たちに確認をしていませんでした。当時はきちんとした手順や、この地域のことをまだよくわかっていなかったんです」と、島根町の海に潜ることは一度あきらめる決意をしました。

森廣さんが沖縄に負けないくらい美しいという島根町の海

島根への移住、
そして挫折。

その後程なくして、森廣さん宛に一本の電話が。それは休業中のダイビングショップのオーナーが店を再開させたいと言っているから話してみないかという内容でした。森廣さんはすぐに会いに行き、一緒に再開に向けた手続きを行うことに。この時、市役所や地元の漁業者との話し合いのため、広島と行き来することが増えた森廣さんは本格的に島根町に移住することを決意します。工務店の社長から紹介してもらった空き家をすぐに購入。「この海に潜れるなら」という強い気持ちを持ってオープンに向け準備を進めていきました。
しかし、なかなか話が進まず再開の見通しもつかない日々が続きます。そんな森廣さんを見て心配した地元の人から定置網漁業の仕事を紹介され働きながら、漁業をしながらここでダイビングできる日を待っていました。
この時期が一番しんどかったと振り返る森廣さん。「それまで広島で割と満足した生活を送ってきました。金銭的にも余裕があって好きなことをして暮らしていたんです。そんな生活をすべて捨て、大きな決断をしてこっちに来たのに、自分は今何やっているんだろう」と、どこにもぶつけられない思いを抱え、辛い日々を送ったといいます。それでも、「広島の人たちに夢を語って出てきたのに、“ダメだった”と言って帰れない。なんとか結果を残さないと」と自身を奮い立たせながら、ここでの夢を諦めませんでした。

すべては自分を
知ってもらうため
踏ん張れた葛藤の日々。

森廣さんは、新たな目標を立てます。それは“住んでいる野波地区で自分の店をオープンさせること”。他の地区での定置網漁の仕事を続けながら、野波地区の漁師さんたちに、「ダイビングとは?」「島根町でダイビングをする価値」など自分の想いを丁寧に説明していきました。「あと1年だけは頑張ろうと思いました。地域の人たちに、まずは自分がどんな人間かを知ってもらおうと行事にも全て積極的に参加しました。草刈りや飲めないお酒も頑張って飲んで・・・(笑)とにかく皆さんにここでダイビングをしたいとお願いをしました。これでダメなら広島に帰ろうと。それなら諦めがつくと思って」と森廣さん。この並々ならぬ努力と、ここの海への熱意が伝わり、最後の最後にやっと地元の人たちの許可が下りたのです。地元の漁師さんからは「この1年間、君がやってきたことは見ている。みんなも、『あいつならいいんじゃないか』と言う話だった」と言ってもらえました。「それを聞いた時は、帰ってから泣きました」と森廣さん。今までの努力が報われた瞬間でした。移住して1年以上が経ち、やっとスタートラインに立てた森廣さん。やりたいことに向かって、いよいよ動き出す時が来ました。

移住までの道のりは決して平坦ではなかった

想いの詰まった「ロコブルー」。

念願だったダイビング体験の受け入れをスタートさせた森廣さん。ここは、初心者でも潜りやすい、穏やかな波が特徴のビーチ。ジオパークに登録されているだけあって、起伏がある面白い地形が多く、船で少し先の方まで行くと上級者にとっておすすめのスポットが多数点在するそう。また、呼びかけで集まった人たちと毎月ビーチクリーンを実施。いつまでも美しいままでいてほしいと、環境保全の大切さを伝える活動も積極的に行なっています。
同時に、目の前が海という絶好のロケーションにある自宅でDIYを開始。カフェやゲストハウスを続々とオープンさせ、さらには地区内の使われていない消防署の建物を市から借り、ダイビング専用のショップにリノベーションしました。すべて森廣さんのセンスでスタイリッシュな空間に生まれ変わっています。これまでの辛い日々を乗り越えたからこそ手に入れた宝物たち。それが、森廣さんの様々な想いの詰まった「ロコブルー」です。

地元の人の気持ちも忘れない
歩み寄りで
お互いの価値観を受け入れる。

「僕の場合、やりたいことが特殊だったからかもしれないけど、移住は本当に大変でした」。森廣さんは、自分の信念を曲げることなく愚直に想いを伝え続けた結果、それが地元の人に伝わったのです。今があるのは森廣さんが、地元の人へのリスペクトを忘れず丁寧に向き合ってきたから。「漁師さんたちにとって、この海は漁場なんですよね。だから、知らない人たちがボンベを背負って海に潜ることは、密猟してるのではと勘違いされる」と地元の人の気持ちも理解しつつ、「でも僕らにしてみたら、きれいな海に潜って魚を見たりすることだけが喜びなんです。同じ海でも立場が違うと価値観がまったく違うものになるんです」と続けます。「透明度が高くて、色んな生き物がいて。都会の人にとっては、それだけで価値がある。だからこそ、自信を持ってみんなにおすすめできる。それほどこの海は間違いないんです」と力強く語ります。地元の人との感覚のズレを理解してもらうことはなかなか難しいのかもしれませんが、お互いが歩み寄ることで、地元の人の気持ちを少しずつ変えていっていることも確かです。

海の生き物との触れ合いも楽しめるダイビング体験

海の生き物との触れ合いも楽しめるダイビング体験

島根には地元の人たちが気づいていない価値が
たくさんある。

「島根に来て思うことは、一言で言うと『もったいない』。島根はよその県に負けないくらいの素質があるのに、活かしきれてないんです」と、少し残念そうな森廣さん。「松江の人だってすぐ近くにこんなにきれいな海があるなんて知らない人が多いんです。宍道湖にも水鳥がたくさんいて。他の県では見ることができない光景です。素晴らしい価値があるのに地元の人が気づいていない」。地元の人にとっては見慣れすぎて当たり前だと思っている景色を、もっと多くの人に広めて感動してもらいたいと語ります。

好きなことを仕事にできるって、
一番の幸せかもしれない。

「自分がやりたいことをして暮らしているので、今は幸せです。僕は、会社員が向かないタイプなので(笑)。人に何かを言われて動くのが嫌で、常に自分で考えたことを実行したいんですよね」と森廣さん。金銭的な面ではまだまだ不安定で、贅沢な暮らしはできませんが、ストレスフリーな生活には満足しています。
ロコブルーの最大の魅力は何ですか?と尋ねると「働いているスタッフ一人ひとりの個性ですね」との返答が。移住にまつわるたくさんのストーリーを語ってくれる森廣さんを筆頭に、アフリカで看護師として公衆衛生の活動を経験し、現在も日本にいながら支援を続けている森廣さんの奥様、小学校の教員として長年勤務した経験を活かし、子どもたちに海のプラスチックごみについて考えながら環境活動をしている方など、ロコブルーには話しているだけでワクワクする人たちが集まっています。スタッフの一人は「森廣さんに『これやってみたいんです』って相談すると、すぐ『いいね!やろう!』って言ってくれるんです(笑)」と、やりたいことが実現できる環境に惹かれて、自然とここに流れ着いたのだとか。「お客さんもみんな、森廣さんの生き方に憧れています。森廣さんに“会いに“、ダイビングをしにくるお客さんも多いですよ」。
森廣さんをはじめ、それぞれ自分の意思を持って活動するスタッフたち。そんな人たちと話すだけでも、ロコブルーに来る価値があると言っても過言ではありません。

田舎ツーリズムのロコブルーに来て、突き抜けるブルーの海を見たり、海の中のかわいい生き物たちと触れ合うことで、日頃の疲れも癒やされるでしょう。
また、森廣さんから移住の話を聞いたり、おすすめする島根の良いところを知るだけでも、次のステップに向けたヒントが見つかるかもしれません。
人生の一歩を踏み出したい人にとって、そっと背中を押してくれる。
「ロコブルー」は、そんなあたたかな場所です。ぜひ、一度訪れてみてください。