島根県邑南町の豊かな里山に佇む「田舎体験宿 八十八(やそや)」。
築120年の古民家で過ごす時間は、観光地を巡る旅とはひと味違う、地域の暮らしそのものに触れる体験です。
畑で野菜を収穫し、囲炉裏を囲んで食卓を囲み、夜には満天の星空を眺める。そこには便利さでは測れない豊かさがあります。
宿を営む山根みゆきさんが伝えたいのは、「命をいただき、生かされている」という当たり前だけれど忘れがちなこと。人と自然が寄り添って暮らす邑南町だからこそ出会える景色や時間が、訪れる人の心をゆっくりとほどいてくれます。
故郷へのUターンから始まった古民家宿
浜田自動車道・瑞穂インターチェンジから車で約20分。山あいの集落を進むと、昔ながらの趣を残す古民家が姿を現します。それが「田舎体験宿 八十八」です。
宿を営む山根みゆきさんは邑南町の出身。都会で仕事をしながら忙しい毎日を送るなかで、「もう一度、故郷で暮らしたい」という思いが募り、Uターンを決意しました。
帰郷後に出会ったのが、築約120年の古民家。前の所有者が丁寧に改修していたことも後押しとなり、「ここなら、人が自然とつながる場所をつくれるかもしれない」。そんな思いから2024年に宿をオープンしました。
宿の名前「八十八」は、漢字の「米」が八・十・八から成ることに由来しています。米づくりをはじめとする里山の暮らしへの敬意と、末広がりの縁起の良さを込めた名前です。ロゴに描かれた稲穂と鹿の角にも、人と自然が支え合う里山の営みへの思いが込められています。
「命をいただく」ことを伝えるジビエ体験
山根さんが宿で大切にしているテーマは、「命をつなぐこと」。
Uターン後、猟師である父親と山へ入ったことをきっかけに狩猟の世界を知り、自らも狩猟免許を取得しました。現在では鹿を中心に捕獲から解体、出荷までを行い、宿でも自ら捕獲した鹿肉を使った料理を提供しています。
普段、食卓に並ぶ料理の背景を意識する機会は多くありません。しかし、この宿では「食べることは命をいただくこと」という事実を、体験を通して自然に感じることができます。
山や田畑が育む恵みへの感謝を知り、人と自然とのつながりを見つめ直す。それもまた、「八十八」で過ごす時間の大きな魅力です。
五感で味わう、里山の暮らし
宿泊する人たちが楽しみにしているのが、里山の日常を体験できるプログラムです。
夕食前には畑へ出て旬の野菜を収穫し、山根さんと一緒に料理をつくります。お米は隣の田んぼで育てられたもの。採れたての野菜とジビエを囲みながら食卓を囲む時間は、まるで親戚の家に帰ってきたような温かさがあります。
食後は焚き火を囲み、耳を澄ませば虫の声が響き渡ります。空を見上げると、街では見ることのできない満天の星。初夏には蛍が飛び交い、四季折々の自然が訪れる人を迎えてくれます。
子どもたちは田んぼのあぜ道で虫捕りに夢中になり、大人も気づけば時間を忘れて自然の中に溶け込んでいます。
デジタルを離れ、人と自然に向き合う時間
「八十八」には、テレビはありません。スマートフォンを見る時間も自然と少なくなります。
その代わりに生まれるのは、人との会話です。今日見つけた虫のこと、収穫した野菜のこと、星空の美しさや動物たちの暮らし。家族や仲間との何気ない会話が、旅の思い出になっていきます。
宿泊した家族からは、「特別な観光をしなくても、家族みんなで贅沢な時間を過ごせた」という声も寄せられているそうです。
山根さんは、「自然の中では子どもたちが本当によく遊び、よく働き、よく食べ、よく眠る」と話します。便利さに囲まれた日常では忘れがちな、人として当たり前の営みが、この場所には息づいています。
何か特別なアクティビティがあるわけではありません。それでも帰る頃には、「また来たい」と思える理由がきっと見つかるはずです。
邑南町の自然、人の温かさ、そして命の大切さに触れる旅。「田舎体験宿 八十八」は、日々の忙しさから少し離れ、自分らしい時間を取り戻せる場所です。